東京物語 – 帝国ホテル-第1章

帝国ていこくホテル (第一章)

撰文：まゆみ 翻訳：美咲  録音：ハセガ

「帝国ていこくホテルまで。」

「請開到帝國飯店。」

そう言いうと、透とおるは、目めを閉とじた。今日きょうの相手あいてこそ、俺おれが望のぞんでいた結婚相手けっこんあいてではないか。極貧ごくひんから抜ぬけ出だすために、なんでもやってきた。当然とうぜん、人ひとには言いえないこともしてきた。しかし、今いまやIT企業きぎょうの社長しゃちょうとして度々たびたびマスメディアに登場とうじょうし、サクセスストーリーを語かたるまでになった。ブランド品ひんで身みを固かため、一流いちりゅうの店みせで食事しょくじをし、だれもが羨うらやむ白金台しろかねだいに西洋せいようの城しろを思おもわせるような白亜はくあの家いえを建たてた。駐車場ちゅうしゃじょうには、フェラーリ、ポルシェ、ベンツが並ならぶ。会社かいしゃは、渋谷しぶやの駅上えきうえの23にじゅうさん階かい。東京とうきょうタワーも東京とうきょうスカイツリーも見みえる。そんな俺おれが求もとめているものは、残のこり一ひとつだ。そう、金かねでは買かえない「家柄いえがら」。それを手てにいれるには、「名家めいか」の育そだちのいい娘むすめと結婚けっこんすればいい。そうすれば、インタビューを受うける際さい、封印ふういんしてきた俺おれの燻くすんだ過去かこに触ふれられることもなくなる。完璧かんぺきな人生じんせいもできあがりだ。

此話一出，阿透便閉上雙眼。今天的對象可應該是我所期望的結婚對象不是嗎？為了脫離極度貧窮而什麼事情都做地努力到現在，當然，這並不是能對別人說的事情，但是現在不只成了科技產業的社長，還在媒體上露臉大談自己成功的經驗，以高級名牌來打理外在、在一流的高級餐廳用餐、在任誰都會羨慕的白金台高級住宅區打造像是西洋城堡的全白住宅；停車場裡有法拉利、保時捷、賓士並列排著；公司設在涉谷車站上方的23樓，可以看得到東京鐵塔和天空樹，然而，這樣的我，所追求的事物還剩下一個——正是那就算有錢也買不了的「家世」。能夠得到的方法——只要能和出身自「名門」的女兒結婚就能達到了。這樣一來，就能說是成就了完美的人生。

お客きゃくの車くるまの下したに潜もぐり込こみ油あぶらまみれになりながら修理しゅうりしていた親父おやじが、車くるまの下したから優やさしい笑顔えがおで俺おれの名前なまえを呼よんでいたシーンが蘇よみがる。しかし、俺おれが小学校しょうがっこうへ上あがる直前ちょくぜん、親父おやじは俺おれとお袋ふくろの前まえから姿すがたを消けした。しかも、何なにも告つげずに・・・

鑽進客人的車子底下沾得滿身油漬一邊修理的老爸，在車底下用溫柔的笑臉叫著我的場景浮現了出來。但是，就在我快升上小學之前，老爸在我和老媽的面前不知去向了，而且什麼訊息都沒有留下。

30さんじゅう年ねんも前まえのことなのに、今いまでも鮮明せんめいに覚おぼえている。

這明明都已經30年前的事了，但到現在卻很鮮明地記得。

　珍めずらしく親父おやじがみんなで出でかけようと言いい、その後ご俺おれたちにくる悪夢あくむのような日々ひびなど想像そうぞうもしなかった俺おれは、大喜おおよころびで部屋へやの中なかをスキップした。そして、当時とうじ一番いちばん好すきだったTティーシャツにジャイアンツの帽子ぼうしをかぶり、支度したくするお袋ふくろを「まだ?まだ?」と急せかしたものだ。普段ふだん何なにも構かまわないお袋ふくろが化粧けしょうをし、身支度みじたくを整ととのえて出でてきた時ときには、本当ほんとうにきれいだと思おもった。お袋ふくろをきれいだと思おもったのは、その時ときが最初さいしょで最後さいごだ。一張羅いっちょうらの上着うわぎを羽織はおった親父おやじは、俺おれたちを銀座ぎんざに連つれて行いき、デパートの上うえの階かいのレストランで、「なんでも好すきなものを食くえ!」と言いい、自分じぶんはうまそうにビールを飲のんでいた。

很難得的，某天老爸說要帶大家一起出門，當時還完全無法想像在那之後的日子會成為惡夢的我很開心地衝出房間，然後穿上當時最喜歡的T恤、戴上巨人隊的球帽，向還在準備的老媽頻頻問著「還沒好嗎？還沒好嗎？」當時是那般的耐不住性子。平常也完全無所謂的老媽也化了妝，覺得她換裝完畢走出門的當下，真的是非常美麗。覺得自己老媽很美的時候，那是第一次卻也是最後一次。穿著那一百零一件好看上衣的父親，帶著我們來到了銀座某家百貨樓上的餐廳。「什麼喜歡的都可以叫來吃！」語畢之後，老爸自己便一副很好喝的樣子喝著啤酒。

俺おれは、きれいに盛もり付つけられたお子こ様さまランチのプレートにのっているエビフライの大おおきさに驚おどろきながら、ものすごくうまい!と思おもった。それから、大おおきな本屋ほんやに寄より、親父おやじは俺おれに辞書じしょを買かってくれた。

我則是對著擺盤得很豐盛的兒童套餐上那驚人的大尾炸蝦邊感到驚訝、 邊覺得真是好吃得不得了地吃著！用餐過後，順便逛了一家很大的書店，老爸在那買了一本字典給我。

「とにかく、勉強べんきょうだけはしろ!頭あたまで金かねを稼かせげ!」と。どうせ買かってくれるなら、違ちがうものがいいなぁと思おもいながらも、俺おれの顔かおを覗のぞき込こみ真剣しんけんな眼差まなざしの親父おやじに、俺おれはコクリとうなずくしかなかった。

「不管怎麼樣，只有唸書這回事給我唸就對了！用頭腦來賺錢！」既然一定要買東西的話，如果換成是別的東西該有多好？看到瞥著我的臉露出認真眼神的老爸，我只能不由分說的點著頭。

それから俺おれたち親子おやこ三人さんにんは、銀座ぎんざをブラブラ歩あるきながら、親父おやじの提案ていあんで皇居こうきょへ向むかった。いつになく快活かいかつな親父おやじに、子こども心ごころになんだかとてもウキウキしていた。そんな親父おやじが、ある重厚じゅうこうな佇たたずまいの前まえに立たち、俺おれに言いった。

接著，我們親子三人就在銀座邊走邊逛，在老爸的提案之下便往皇居移動。和平時不同，老爸顯得很開朗，就像有赤子之心一般地興奮著。這樣的老爸，在一個感覺很安靜的地方前站著，對我說。

「よく見みておけよ。お前まえもいつか、ここで食事しょくじをするような大人おとなになれ!」

「你可要好好看著啊！你總有一天一定要成為能夠在這個地方吃飯的大人！」

親父おやじの声こえは、小ちいさかったが力ちから強づよかった。思おもわず、「はい。」と答こたえた。

老爸的聲音，雖然很小聲但卻鏗鏘有力，我不做多想的地就應了聲「知道」。

ホテルという文字もじだけ読よめた。スタスタ歩あるいて行いく親父おやじの後あとに続つづいていくと、金きんのボタンが輝かがやいている制服せいふくを着きた男おとこの人ひとが満面まんめんの笑えみで、「いらっしゃいませ。」と迎むかえてくれ、自動じどうでスーッと開ひらいたドアを抑おさえていてくれた。

當時的我只看得懂「ホテル」這三個字，接著便快步地跟在往前走的老爸後頭。穿著有金色鈕扣在閃耀的制服的男人帶著滿臉的笑容對我們說著「歡迎大駕光臨」上前來迎接我們，還為我們將倏地自動打開的門給維持著。

ドアの向むこうは、別世界べつせかいだった。俺おれの運動靴うんどうぐつの底そこが埋うもれてしまうほどの毛け足あしの長ながいジュータン、天井てんじょうからはまるでダイアモンドがいくつも下さがっているように見みえるシャンデリア、何本なんぼんあるのか数かぞえ切きれないほどのバラの花はなが飾かざってあった。

門的那一端，簡直是另一個世界。那幾乎要讓我的運動鞋鞋底陷進去的長毛地毯、天花板上彷彿像是無數顆鑽石垂下一般的吊燈、還有很多數也數不清的玫瑰花裝飾著。

しかし、そこでは、きれいだと思おもったお袋ふくろが、なんだかとても燻くすんで見みえた。

但是，當時認為很美麗的老媽卻感覺顯得失色了許多。

続つづく

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まばら
物が少なくて、間がすいている様子。すきまのあいている様子。
東西不多，空間很多的感覺。很多空隙的樣子。

あの辺りは、人通りもまばらな住宅地だよ。
在那一帶，是沒什麼人通過的住宅地區。

 

羨望せんぼう
羨むこと。
羨慕的事。

彼女はいつも、羨望の的だよね。
那位女孩向來都一直是大家所羨慕的焦點。

 

思いをはせて(はせる)
遠く離れている人や物事を思いやる。
思念著離開久遠的人或事務。

海外に住んでいると、故郷に思いをはせることが多い。
海外住久了後，常會有望鄉的思念。

 

パワー
力。体力。気力。
力氣。體力。氣力。

軽自動車は、やはりパワーがないよね。
輕型轎車還是比較沒馬力吧。

 

チャージ
航空機・自動車に燃料を入れたり、蓄電池に充電したりすること。蓄えられること。蓄積すること。
將燃料加入飛機．汽車、於蓄電池充電等。被儲備。積存。

ICカードに現金をチャージしておこう。
看來還是來將IC通車卡存點錢進去才好。

 

捨てたものでもない
役に立たないとして見限ることはない。まだまだ使い道がある。
還不是無一是處，完全無用的就是了。還派得上用場的。

汚い店だけど、料理は、捨てたものでもないよ。
看起來雖然是髒些的店面，賣的食物可不是沒兩把刷子的。

 

タイミング【timing】
ある物事をするのに最も適した時機・瞬間。
在做什麼事情時的最佳時機或時間點。

タイミングが合わないと、うまくいかないよ。
時機點不對的話，是無法順利完成的。

 

名詞めいしまみれ 名詞めいしのものが一面いちめんに汚きたならしい感かんじでついていることを表あらわす。また、困こまった状態じょうたいであることを表あらわす。

東西不多，空間很多的感覺。很多空隙的樣子。

 

動詞どうした形けい＋ものだ

回想かいそうを表あらわす。

 

一張羅いっちょうら

「その人ひとが持もっている衣服いふくのなかで、最もっともよいもの。」あるいは、「ほかには持もたず、たった1着いっちゃくきりの衣服いふく。」という意味いみ。

 

コクリとうなずく

「コクリ」は、首くびを前まえに軽かるく傾かたむける様子ようす。

 

いつになく【いつにない】

　いつもと違ちがっている。ふだんのようではない。

 

佇たたずまい

立たっているようす。また、そこにあるもののある様子ようす。そのもののかもし出だす雰囲気ふんいき。

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日語造句

• 汗あせまみれでボールを追おう選手せんしゅたちを応援おうえんせずにはいられなかった。汗あせまみれでボールを追おう選手せんしゅたちを応援おうえんせずにはいられなかった。
  忍不住為滿身是汗正在追球的選手加油。
• 幼おさない頃ころは、この川かわで泳およいだものだよ。幼おさない頃ころは、この川かわで泳およいだものだよ。
  小時候，我常常在這條河裡游泳。
• パーティー?一張羅いっちょうらのスーツで行いくしかないよ。パーティー?一張羅いっちょうらのスーツで行いくしかないよ。
  派對？只能穿我那唯一的一套西裝去了。
• 納得なっとくできなかったが、黙だまってコクリとうなずいた。納得なっとくできなかったが、黙だまってコクリとうなずいた。
  雖然無法認同，但還是沉默地點了點頭。
• 遅刻ちこくばかりしているのに、今日きょうはいつになく早はやいねぇー。どうした。遅刻ちこくばかりしているのに、今日きょうはいつになく早はやいねぇー。どうした
  平常明明都一直遲到，今天卻一反常態地早呢。是發生什麼事了？
• 初はじめて見みた時ときには、広ひろい庭園ていえんの落おち着ついた佇たたずまいに圧倒あっとうされた。初はじめて見みた時ときには、広ひろい庭園ていえんの落おち着ついた佇たたずまいに圧倒あっとうされた。
  第一次見到的時候，被寬敞庭園的沉穩景緻震懾了。